9.真理領域(V)、陰極天

・『X.真理領域』で述べたが、この領域のものは、はっきりした意味を掴むのは、困難極まる。

・しかし、分かっていることだけ述べてみる。


・『陰極天』は『真理領域』の中の「三つの存在」のうち、「陰」を司っているものである。
 それは、この『樹』における「陰」の原理の頂点を司っている。

・カバラにおいては「ビナー」に対応する、「ビナー」は「ケテル(1)」「ホクマー(2)」に続いて、「3番目の存在」となるので、『陰極天』と呼んでいる。

・カバラにおいての「ビナー」は、左側にあるとされる、「陰」の柱の頂点にあたる。

・それは、形成を司っている。いくらか形を持ってる、幾何的なものがここには存在している。

・ヌーソロジー的には、「思形」という存在が、ここに対応する。まさしく、カクカクした、「割り切れるようなもの」である存在に該当する。

・「ビナー」には、原典では「理解」という言葉が割り当てられている。脳の使い方としては、「形成を作って考える」「分析する」ようなイメージの思考力を司っている一面がある。
 それは、ありとあらゆる叡智に対しての「理解」を指す。幾何学的なもの、数学的なもの、科学的なものから、文学的なもの、霊的なものもまで含む。

・数字では、「3」が割り当てられているが、点が3つあると、「三角形」という形を、ひとまず作ることができる。これは、「形成のベース」を作る状態にあたる。

・また、「ホクマー」が「力」であることに対して、「ビナー」は「形」が割り当てられている。これは、「ビナー」が「形成のベース」を作るものであり、また、その下にある「ゲブラー」と「ホド」もその影響を受けるからである。

・「ビナー」は、伝統的なカバラにおいて、原典には「存在の母」として書かれていて、「女性原理の本質」と言われている。しかし、それは思考的なものを指すので、一般的には、「女性」と解釈するのは、少し困難である。
 カバラにおいては、「ビナー」は、思考的なものを表すが、敢えて「女性」の象徴として扱っている。これは、カバラ特有の考え方であり、この部分を理解するには、一般常識とは違った考え方が必要である。

・それは、「陰性」と解釈することができるので、「陰性」と呼ぶこともできる。ここでいう「女性」も、「陰性」という意味での、「女性」である。
 「ビナー」は、「陰性原理の本質」と呼ぶに相応しいものである。
 
・もし、「女性」で解釈するならば、日本神話のイザナミのイメージが近い。
(しかし、イザナミは、正式には、ビナーでない別のものに割り当てられるという説がある。)

・思考的な要素があるが、万物の母的な要素もある。「ビナー」は、「大地」と説明されることもある。伝統カバラにおいて、「女性的なもの」として扱われてる理由は、そうした理由がある。


・ここで、元型界(アツィルト界)の三角形、「ケテル」「ホクマー」「ビナー」における、「力の流れ方」について述べる。

・まず、神聖四文字と言われる、「YHVH」という存在がある。この「YHVH」は強い創造エネルギーを持っていて、万物を創造する際、まず、このエネルギーが、この世界の次元の「ケテル」へと流出する。これが「1番目のエネルギー」である。

・次に、「ケテル」から流出したそのエネルギーを、2番目の「ホクマー」が受け取る。この時点では、その力は、まだ形を持たない、抽象的で流動的な形状である。

・そして、今度は、そのエネルギーは3番目の「ビナー」に送られる。そして、「ビナー」において、そのエネルギーが、形を持つものに「形成」される。
 それは、丁度、「点が三つあること」によって、面が出来るようになり、その面における、様々な図形を作り出すことができるようなイメージである。

・このように、「ビナー」は形成を作り出す役割を持っている。
 「ビナー」によって形成されたエネルギーは、今度は、「物質化」する方向へと向かい、そこから、「物質世界」が生まれる。
 このように、「ビナー」は、「元型」の世界と、「物質」の世界との、橋渡しの役割も持つ。


・「ビナー」は、「1」「2」「3」の数字の中では、「3」に対応している存在であり、「2」に対応している「ホクマー」は、「ケテル」の力を多いに受け取り、活動をしているが、それだけでは、その一方向的な活動は、あらぬ方向へと暴走し、それが抑えられないまま、破滅的な方向へと向かってしまう可能性を持つ。
 そのため、「ビナー」は、それに対し、「抑止」「調節」「制御」「発展のための何かしらの処理」を行っている存在…と解釈することができる。


・原典の記述におけるビナーは、「海」という説明がある。これは、深い説明は難しいが、「存在の母」のイメージに近い「海」である。

・また、「父」である「ホクマー」と、「母」である「ビナー」との結合により、「ダァト」を作り出す。
 そこからまた次元が一変し、すべてのセフィラーと、世界が作られると解釈できる。


・「ビナー」の色は、黒色とされている。
 それは、「ケテル」と「ホクマー」の持っていない、「影」の部分を司っていて、強い「光」に対抗できるような、強い「漆黒」の色を持っている。
 また、他にも「ケテル」「ホクマー」の持っていない要素を、補うかのような「色」を持っている。
 それは、主に闇を引き立たせるような色が強い。

・また、「死」を司っているとも言われている。元型界においては、「ケテル」と「ホクマー」までは、「生」の力が満ち溢れているが、「ビナー」はその中で、「死」を司っている。
 よって、「ケテル」や「ホクマー」から見ると、まがまがしく見える、闇のような存在である。

・『陰極天』は、これらの「ビナー」の性質を持つものだが、あくまで「ビナー」は、カバラの原典である
「ゾハールの書」に書かれている「ビナー」である。それは主に「神」からの視点、「ケテル」からの視点で書かれたものである。
 『陰極天』は、人間の世界から見た「ビナーに相応するもの」である。

・『陰極天』は、『陽極天』と同じくして、「エデンの園」と言えるような、『真理領域』にある存在であるが、その中で、どちらかというと、人間に寄っている存在である。
 そもそも、人間に「知恵」を与えたのが、この存在なのではないかと解釈できる。『陰極天』は、人間の可能性を期待しているような存在である。

・また、『陰極天』は、人間のそうした「知恵」を司っていることと同様に、「科学」も司っている。
 「科学」は、「自然」に反する存在であるため、神々の世界からは忌み嫌われているものである。『陰極天』も同様に、そうした形で忌み嫌われている。
 しかし、『陰極天』は、人間が「科学」を正しく使うことで、世界に新しい可能性をもたらすことを、期待しているような存在である。


・ヌーソロジー的には、ψ9に対応する。

・ψ9は「思形」、中でも「人間の思形」と言われている。

・ψ7とψ8を等化する力と、ψ1〜ψ8までを上次元に導く力を持っている。

・それは、『青の勢力』と『堕天の識』の持つ、「知恵」と「知識」の要素を、主に持ってる。知性的な要素が、非常に強力である。ここでの知性は、いわば、「高次の知性」である。

・この「高次の知性」が、ψ7とψ8を等化する力と関係がある。


・「思形」は、ヌーソロジーの世界では、「男性原理」として扱われているものである。
 これは、カバラにおいて、ビナーが「女性原理」として扱われていることに矛盾する。
 これはどういうことかというと・・・ひとまず、どちらも、「思形」「理性」「形成」といったイメージのものを持っていることは確かである。

・カバラは、主にケテルからの視点、ヌーソロジーは、主にマルクトからの視点で、構造を見ている。
 よって、この視点の違いによって、性別の解釈が違うということが考えられる。
 ケテルからの視点では、伝統カバラに習って「女性原理」として扱い、マルクトからの視点では、「男性原理」として扱うことで、相互において反転する関係になると解釈することができる。

・また、「思形」は、女性の持つ卵子の構造に対応していると言われる。この点においては、確かに女性原理と呼ぶべき性質を持っている。


・カバラの原典における「ビナー」の扱いと、ヌーソロジーとの絡みを考えてみると、「ビナー」は、「ψ*9」→「奇数系元止揚」と流れているものではないかと見ることができる。
 他者側の「ψ*9」が、自己側では「ψ10」として作用する。これが結果として「奇数系元止揚」の力を生み出すことになる。突き詰めて考えると、根元的にあるのは「Ω10」の力であり、それは、「反性質」の力を生み出す「母」として機能している。

・つまり、「ビナー」と『陰極天』は「ψ9」と説明しているが、「ビナー」を指して言う場合は、正確には「ψ*9」である。しかし、「ψ7」と「ψ8」を実際に「等化」することにより、他者側との交差を行うことができるので、結果として「ψ*9」を「ψ9」として扱うことができる。

・「ビナー」が「女性原理」として扱われているのは、「奇数系元止揚」の作用によるものである。しかし、「ψ*9」に着目した場合は、「男性原理」のように扱うことができる。ここが、ケテルから見た視点と、マルクトから見た視点の違いである。

・こうして、カバラにおける「ビナー」は、「ψ*9」に着目されている場合と、「奇数系元止揚」に着目されている場合とがある。
 「ψ*9」に着目した場合は「形」「陰」のイメージが浮かび上がってきて、「奇数系元止揚」に着目した場合は「存在の母」「海」のイメージが浮かび上がってくる。


・『陰極天』の惑星との対応は、「天王星」が対応している。これは、ヌーソロジーにおけるψ9への対応である。
 しかし、カバラにおける「ビナー」の対応は、「土星」と伝えられてることがある、ここには違いがある。
 そもそも、原典においては、惑星の割り当てというのはされておらず、「土星」が対応になっているのは、後世の魔術師の解釈によるものである。
 魔術カバラでは、伝統的なものと同様、「ダァト」は「非セフィラー」と扱われている。
 それから、グノーシス思想において、意識進化をして「天上」に到達するための「惑星」の順番というのがある。
 それが、「地球→月→水星→金星→太陽→火星→木星→土星」であり、これを「マルクト=地球」から始め、「生命の樹」のセフィラーに対応する数字と逆へ進んで行くと、大まかに現在の解釈になる。
 ここで、「ダァト」を「非セフィラー」とすることで、「ビナー」が丁度、土星にあたるわけである。
 「カバラ」では、「ダァト」を非セフィラーとするが、『樹』では、それは『堕天の識』として、そのようには扱わず、そこに「土星」をあてる。従って、『陰極天』では別のものがあたる。
 そして、ここでは、「天王星」を採用することになる。

・「ビナー」に「土星」があたっているのも恐らく、全くの間違いというわけではない。「土星」は、『堕天の識』が絡んでいる所だが、『陰極天』は『堕天の識』の要素を持っていると考えることができる。
 『堕天の識』、もとい「ダァト」の持つ「高次の知識」を、『陰極天』は扱うことができる。よって、『陰極天』と、そのイメージに近い「ビナー」も、「土星」のイメージも十分に持ってる。

・ヌーソロジー的には、「土星」は、ψ8とされているが、ψ8とψ9は、実に微妙な関係を持っているものである。共に、科学的なものを司っていることは一致している。

・『陰極天』と『堕天の識』の微妙な関係、ψ9とψ8の微妙な関係を読み解くことが、恐らく、真理を解読する上で、鍵となる所である。


・占星術における「天王星」は、「変革」「改革」といったものを司っている星である。それは、「土星」による「制限」から解き放たれるということなので、正しく、『陰極天』とψ9に割り当てるのに相応しいものである。
 また、テクノロジーを活かすことも、いくらか司っている。
 

・『陰極天』が、低次の『樹』の概念と関わりを持つにおいて、それは、「次元ユニット1〜次元ユニット8」までの「構造」を、司っていると考えられる。

・ヌーソロジー的には、ψ1〜ψ8までの「元止揚空間」と、「等化」として関わっているものにあたる。
 それは、ψ7を先手として、ψ8と関わっている必要がある。それは、ψ1〜ψ8の構造を、明確に見えることを意味する。

・よって、ここでいう、『青の勢力』と『堕天の識』との関わりが強く、その中での知性的な側面との関わりが強い。その知性を以てして、「次元の構造」という、高次元の知性を司っている。


・魔術カバラの説明では、「ティファレト」は、「低次のケテル」と言われているが、同様に、「ホド」は、「低次のビナー」と言うことができる。
 この二つは似た性質を持っており、関係している。

・ヌーソロジー的には、ψ9とψ3は、ψ9の「凝縮化」によって、他者側のψ*3を見い出すことができる関係にあたる。

・また、ψ3は、「人間の外面」を司っているが、ψ9は、「人間の内面の意識」を司っている。この「人間の内面の意識」は「人間の内面」とは異なる、別の領域の意識である。
 ψ3とψ9においては、人間の内面と外面が入れ替わる関係にあるが、どちらも重要な「ノウス」にあたる。


・『知性の陰影』と『情動の陽光』は、それぞれ、錬金術における「水銀」と「硫黄」に関係している。
 これは、「陰」の象徴と、「陽」の象徴としての役割である。

・『陰極天』は、より高次元の「陰」であるので、より根元的な「陰」の役割を持った、より本質的な「水銀」と解釈することができる。


・「ホド」に該当する、『知性の陰影』が、『知性の深淵』という、不思議なぐらい清らかなものを持っているのと同様に、『陰極天』も、恐らく、裏面にそうしたものを持っている。
 むしろ、『知性の深淵』とは、『陰極天』の持ってる特性の影響で、存在しているものかもしれないが、はっきりしたことは分からない。

・もしそうであれば、『知性の深淵』こそ、未来の発展において、一番重要なものなのかもしれない。

・『知性の深淵』は、人間の持つ、進化の可能性というものを、強く持っている。
 古来から「メシア」と呼ばれるものは、人間の持つ、こうした可能性そのもののことを言っているのではないかと、解釈することができる。

・この辺りの構造は、恐らく、世界の根幹を司っている所であるが、解読も困難極まる所である。




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