「チュウセイシノトウカヲカイジョスル。シュウカイニメイオウセイノケンセイヲトウカサセルヨウニ」
「リョウカイシマシタ。ノスノタイサノホウコウセイヲノウスニヘンカンスルシジヲマチマス・・・・・・」
何者かの会話が頭の中で聞こえ出したのはその時だった。わたしは自分に何が起こっているのか整理できず、ただ動揺していた。
「スマルノカクシツマクガオオッテイマス。チョウセイシツノチュウワガデキマセン」
「イイカラケンセイヲオクリツヅケナサイ」
まるで混信した電話の会話を聞いているようだった。内容はよく聞き取れないが、どうやら2人いる。透明感のある中性的な声と男性的な威厳のある低い声が交互に響いていたが、突然、中性的な声の方がわたしの名を呼び始めた。
「コウセン、コウセン、コウセン、コウセン、・・・・・・・・・・・・・・・、コウセン」
エンドレステープのように執拗にわたしの名前を呼び続ける機械的音声。一体この声は何なのだろう。わたしは恐ろしくなって叫び声を上げた。正直、自分が発狂したのではないかと思ったからだ。わたしはソファの上に胎児のようにうずくまり、その声が聞こえなくなるように両手で耳をふさぎ意味のない奇声を発し続けた。だが、そのような行為は10分ともつものではない。奇声は徐々に弱々しくなり、ついには途切れていった。
「コウセン、コウセン、コウセン、コウセン、・・・・・・・・・」
例の声が消えていることを願ったが無駄だった。相変わらず先ほどと同じ声がわたしの名を呼び続けている。わたしにはもうその声に抵抗する気力は残っていなかった。わたしは観念して頭の中に響いてくるその声に耳を傾けた。よくよく聞いてみると、その声は決して不快なものではなかった。コンピューターボイスにも似た無表情な声ではあったが、とても穏やかで、ほのかな気品さえ漂わせていた。そのせいか、わたしの恐怖心は次第に薄らいでいき、自然にその声を受け入れた。
「僕です・・・・・・・・・・・・・・・」
「ムカシツガハンノウヲカイシシマシタ」
「ノウスノハッシンヲカイシシナサイ」
「リョウカイシマシタ。・・・・・・・・・・・・コチラハメイオウセイノオコツトデス。コウセンキコエマスカ。・・・・・・コチラハメイオウセイノオコツトデス。コウセンキコエマスカ」
メイオウセイノオコツト・・・・・・? 冥王星のオコツト・・・・・・? わたしの名前だけをリフレインしていた声が、何か別の事を言い出したようだ。その声の主はどうやらわたしに応答を求めている。しかし、意味不明な言葉が混じっていてどうしてよいものやら分からない。
「トツゼンデサゾオドロカレタコトデショウ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ヘンジヲサレナクテモケッコウデス。ワタシハメイオウセイノオコツトトイイマス。コノヨウナカタチデアナタノイシキカンヨヲオコナッタコトヲモウシワケナクオモッテイマス」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
相槌を打つのも変だし、わたしは言われるとおりに黙っていた。
「オコツトトハ、メイオウセイニカンヨスル、シリウスノチョウセイシツデス。コノコウシンハ、スベテ、『シリウス』カラノソウサニヨッテ、オコナワレテイマス。『シリウス』ノ地球人へノ関与ハ、メイオウセイノ近日点通過時カラ始マリマシタ。太陽系ノ最終構成ノタメニ、地球人ノ意識ニ進化を生ミ出スコトガ、ソノ目的デス。シカシ、『プレアデス』ガ作ル強力ナ『付帯質』シールドノタメニ、アナタガタノ意識ガ働イテイル位置ニ、『ハーベスト・ビーコン』ヲ焦点化サセラレズニイマス」
わたしは呆気にとられていた。機械的な抑揚がまたたくまに流暢な日本語に変わっていく。これは一体何なのだろう。自分の思考なのだろうか。でも、自分が何か考えているという自覚はどこにもない。それとも、まだ夢の続きを見ているのだろうか。そう思っている間にも思考空間の奥底から一方的に言葉が溢れ出てくる。
「『ハーベスト・ビーコン』は1989年から発信が始まっています。この交信も冥王星を中継ターミナルとしてそのビーコンに乗せて発信させられています。わたしの役目は『シリウス』の調整シグナルを増幅することにあるのです」
さて、ここで、ようやく、コウセンさんは、自分にチャネリング現象が起きていると、冷静に判断し始めたそうです。
「チャネリング」とは何か?簡単に説明すると、人間が変成意識状態に入り、より高次の意識体とコンタクトを取ることにより、それが持っている情報を言語化することです。
これは、1960年代後半頃に発生し、80年代に至るにつれて、モダン・オカルティストや、ニューエイジと呼ばれる人達の間で流行するようになります。有名所としては、「バシャール」、「セス」、「バーソロミュー」、「ラムサ」・・・などがあります。
有名な魔術師アレイスター・クロウリーが交信をしていた「守護天使エイワス」などもチャネリングソースと言えるし、心理学者カール・G・ユングも、晩年には「老賢者フィレモン」という存在と対話をしていたと言われています。
日本産のものとして有名なのは、神道家の「岡本天明」が啓示を受けた、「日月神示」というのがあります。
しかし、コウセンさんは、このチャネリング現象に対しては、やや懐疑的な方でした。
コウセンさんの考えはこうでした。
チャネリングは、恐らく、何らかの心理的要因によって、自らの顕在意識が関与できない部分で、思考活動が半ば自動的にプロセスされることによって起きている・・・というように解釈していました。
チャネリングで起きていることは、単純に高次元知性体とのコンタクトと捉えているわけでもなく、かといって、チャネラーの捏造パフォーマンスだと捉えているわけでもない、とりあえずは、「潜在意識での無意識的な創作活動が顕在意識に上がってきたもの」という、自分でも意味不明の曖昧なスタンスを取っていたそうです。
そのように考えると、この「オコツト」が「シリウス」という星の名を挙げたことにも合点がいったらしく、なぜなら、「シリウス」はオカルトの伝統では「太陽の背後の隠れた太陽」と呼ばれ、1960年代からのチャネリング流行の火付け役でもある、ティモシー・リアリーが交信した星としてもおなじみの星でした。
従って、自分が今交信を受けている「オコツト」に対しても、自分の記憶の中から拾いだした知識の断片で、一連の情報を組み立てているのではないかと推測し、その意識体に対して、言葉を投げかける余裕ができたそうです。
「つまり、あなたは冥王星人で、『シリウス』からのテレパスを僕ら地球人に転送しているというわけですね」
返事は間髪を入れず返ってきた。
「冥王星人という表現は的確ではありません。人間型ヒューマノイドは冥王星には存在していないからです。あなたがたにしてみれば、わたしはもっと観念的な存在に映るでしょう。地球人の意識進化を推進するために生み出された『変換人型ゲシュタルト』という形容が最も好ましいのではないかと思います」
出来事の正体に自分なりの解釈をつけられると不思議と落ち着くものだ。しかし、実際、巷で耳にしていたチャネリングと、自らが経験するチャネリングとではこんなに差があるものなのか。それは自問自答というより完全な第三者との対話という感じがした。
「変換人型ゲシュタルト・・・・・・?」
「『変換人型ゲシュタルト』とは、あなたがた地球人が21世紀以降に持つ空間認識のプログラムです。現在の地球人の空間認識は歪曲しています。その歪曲が正しい宇宙的理解からあなたがらを遠ざけてしまっているのです。その歪曲を正常な状態に戻す働きが『変換人型ゲシュタルト』の役割です。この送信の目的は、わたし自身、つまり『変換人型ゲシュタルト』をあなたにプログラムすることにあります」
「ちょ、ちょっと待ってくれませんか。唐突にそのようなことを言われても、僕にはこの対話自体に対する理解さえまだよくできていません。ひょっとすると、この対話は僕自身の潜在意識との対話にすぎないのかもしれない・・・・・・・・・」
「その心配はありません。『シリウス』が冥王星を通じてあなたに送信しているコード群は一種の観念の記号のようなもので組み立てられています。それらのコード群は確かに、あなたがたが潜在意識と呼ぶものの中心核に当たる部分に着信しています。そして、その記号を地球上の概念や言語に翻訳しているものも紛れもなく、あなた自身の潜在意識です。しかし、この思考構成は無作為に行われるわけではなく、『シリウス』の発信コードができるだけ正確に伝わるように冥王星の調整を受けています。ですから、通常の調整作用とはかなり違う内容のものになってくるのではないかと思います」
意味は全く分からなかったが、オコツトと名乗るこの意識体の返答は淡々として、実に論理的に聞こえた。しかし、そう簡単にこの手の情報を鵜呑みにしてはならないことも重々承知していた。チャネリングに没頭しすぎて膨大妄想や統合失調症に陥る人々の話をよく耳にしていたからだ。わたしはあくまでもこの対話が自分自身の潜在意識との間でやり取りされているものと決め込んで話を続けた。
・・・と、この後もオコツトとコウセンさんの対話は続いていき、次第にヌーソロジーの情報の中身の話にもなっていきますが、ひとまずはこんな所です。
続きは、書籍「2013:人類が神を見る日」を参照してください。
オコツトとの出会いはこんな感じであり、一旦セッションが終わると、オコツトとの通信は途絶えるようになるそうです。
そしてまた、セッションが始まると、通信が始まるようになり、膨大な情報を提供してくるようになるらしいです。それは、多くの理解不能は用語、「シリウス言語」からなる、実に難解な情報でした。
コウセンさんは、こうして出会った「オコツト」の情報を、自分でまとめ上げていくことになりました・・・