【連載】陰陽哲学

■陰陽哲学基本概要(10) ~陰陽論と孔子の思想(後編)~

投稿日:2023年10月28日 更新日:

不定期連載『陰陽哲学基本概要』シリーズ。 記事一覧はこちら。


 
↓前回

■陰陽哲学基本概要(9) ~陰陽論と孔子の思想(前編)~

引き続き、孔子の思想について書いていく。
 

儒教の基本思想

これまで儒教の歴史について色々と書いていったが、
その内容は簡潔に言うとどんな感じの思想なのか?

もちろん儒教はいくつもの経典があるような思想であるため、それを全部説明するとなると大変なことになるのだが・・・・
「五常の徳(五徳)」の話が核心みたいなものなのでそれだけ説明しておこう。

五徳とは「仁・義・礼・智・信」の5つの徳目であり、儒教においてこれが実践できると良しとされるものである。
他にも三綱(さんこう)とか五倫(ごりん)とか色々とあるらしいが・・・
とりあえず「仁・義・礼・智・信」の5つは代表みたいで分かりやすい。
それぞれざっくりと説明すると以下のようになる。

  • :人を思いやること
    (シンプルにして究極。これが孔子的に最高の道徳に位置づけられる)
  • :利欲にとらわれず、なすべきことをすること
  • :「仁」の具体的な行動としての礼をすること
    (後世で上下関係を守るように解釈されることにもなる)
  • :道理をよく知っていること。知識だけでなく道徳的判断力もあること
  • :友情に厚く、人をあざむかないで誠実であること

これら5つの徳目をどう解釈するかは諸説あるかもしれないが、良いことがそれっぽく書かれている。

そして、孔子の思想においてはこれらを兼ねそろえたような理想的な人が「道徳を持っている」ことになり、道徳を持っている人を「聖人」と呼ぶ。これは清らかで素晴らしい人みたいな意味なので、日本語の「聖人」のイメージにもだいたい近く、儒教の場合はさらに王やリーダーとしての資質も重要になる。
また、それと近い言葉で、道徳と知識を兼ねそろえた理想的な人物を「君子」と呼ぶ。
「聖人君子」みたいな言葉が日本にもあるし、「君子」という言葉を聞いたことがあるだろうか?
中国の古典思想にはこの言葉がよく出てくる。これを洒落た言い方をするならば・・・優れた知識を持ちながらも、庶民のことを考える慈悲の心や人望を併せ持ったエリート・・・即ち「スーパーエリート」みたいなものだろうか?

ちなみに現代のイギリスでも重要視されている「ノブレス・オブリージュ」という言葉がある。
これは「高い社会的地位には義務が伴う」ことを基本理念とし、貴族や王族、富裕層や権力者など力を持って生まれた者ほど、他者を助けたり、リスクを負ったりするようなことをするべきだ・・・みたいな意味の言葉である。
例として、イギリスの貴族階級の者があえて軍の仕事をしたり、アメリカのセレブがボランティア活動に従事したりすることが挙げられる。

この言葉はフランス語が元なため発端はフランスであり、1808年のピエール=マルク=ガストン・ド・レヴィの記述が最初らしい。孔子の思想の「仁・義・礼」あたりにも通じていそうな言葉である。
孔子の思想の発端は紀元前5世紀あたりで、ノブレス・オブリージュの発端は19世紀のフランスってことになるが・・・時代と言語は違えど、考えられてることはだいたい一緒である。

 
さて、色々と説明していったが・・・要するに儒教や孔子の目指す方向には、国や庶民のためのリーダーやエリートを育成する宗教・・・というのが根本にあるわけである。

その他にも、宗教として祖先崇拝を重んじる方針だったり、祖先崇拝のための儀式を行う文化も儒教には含まれている。
それから、家族を重んじたり、年寄りを重んじたり、目上の人を重んじたりする風潮もある。
その辺りの特徴が中国や日本のように儒教が広まった国では、良くも悪くも機能することがある。

儒教がどんなものか大体分かってきただろうか?
 

真理追及より国家繁栄

孔子が重視することを一言で言うなら「国家繁栄」である。

優秀なリーダーの出現を望み、政治のことを考え、国民が安心して過ごせる国家であることを孔子は望んでいた。特に孔子のいた時代は戦国時代のように争いが多かったため、平和であることを強く願っていただろう。

「繁栄」と言うと栄え過ぎて他国に侵略をしたり衰退していくイメージもあるので、「国家安定」でも良い。とにかく優秀な王やリーダー達が治める良い国であって欲しい。国家や国民のための思想が孔子の思想である。
これは孔子の生き様からも分かることで、教祖がとにかく自身が育った国や周辺の国が良い国であって欲しいと自ら動いて活躍しようとする人だった。

そんな孔子から派生した儒教の方向性は、とにかく「現実的」だと言える。
現実的に考えると、自身が今住んでいる国が良い方向に行った方が人民も自分も幸せになれる。
だから良い言葉で人を変えようとするし、政治についても考えるのである。

こうした思想がある一方で、宗教や哲学にはやたらと難解な「真理追求」の方向に行くものもある。しかし孔子や儒教の場合はそれよりも現実的で、「真理追求より国家繁栄」の方向へ行く思想だと言えるだろう。

それから、儒教は国に利用されている宗教になってることも重要である。

現代の中国が国を治めるための思想の二軸となってるのは、「法学」と「儒学」の二つだと言われている。
法学は国を治めるためのシンプルなもので、とにかく人を法律で律することに特化した学問である。国家運営においてこれは物質的な主柱となる。
儒学はこれまで説明した通りのものであり、思いやりをもって国を統治したり、家族を重んじたりするものである。国家運営においてこれは精神的な主柱となる。

この二つの共存によって微妙に矛盾することもあって、それで中国の国家運営において厄介なことが起きることもあるらしいのだが・・・

とにかく、儒教や孔子の思想はそれぐらい国家に影響を及ぼす力を持っているわけである。
 

自力救済より他力救済

「国家繁栄」を重視する儒教は、それと同様に「他力救済」を重視する思想だとも言える。

国のために尽力したり、民を救うことに尽力することは、それによって救われる人がいることであり、同時に自分が誰かを救う可能性もある。
そんな「他力救済」の理念を孔子は持っていたし、儒教でもそれが重視される。

そもそも、「誰かが誰かを救う」ことが起きている時は必ず救う側の人間がいるので、それが自分自身になるかもしれない。他力救済の思想には「自分が誰かを救う」ことが必須事項である。
そしてその上で、「自分が誰かに救われる」こともある。

儒教が目指すようなヒーローのいる世の中だと、必ずヒーローによって救われたいと願う者が出てくる。
実際問題、中国は有能なリーダーが政治に立って欲しいという願いが強い上に、政治の安定も望まれていて、とくに安全保障の優先度が高いらしい。
周囲に脅威となる国もある大陸ゆえに国防の需要が高いことも相まって、儒教が普及している社会の場合、一般市民の政治家への信頼感が高くなるのは理屈として納得できる。

その一方で、近代化による儒教の衰退や、混乱による政治不信も実際に起きたりもしているだろうが・・・

なんにせよ、自身が誰かを救う「他力救済」と、何かにすがって救済を求める「他力救済」はセットになってることであり、儒教や孔子の思想はその双方に作用する思想に該当する。

それから、それと対になる「自力救済」の思想もある。
(これについては次回に扱う)
 

孔子~儒教の流れと陰陽哲学

さて・・・ようやく話を陰陽哲学へと繋げていこう・・・

孔子や儒教の方向性は、端的に言うと「国家繁栄」や「他力救済」を重視するので、
陰陽哲学だと「顕陽」側にあるものに該当する。

孔子の思想は基本的に善良なことが書かれていて、その知識を勉強しながら、国やみんなのために働くエリートを目指すものである。

道徳を守って勉強して、国やみんなのために働こうとすると、その意識はパラノのようになるし・・・
周りが言っていることをとりあえず聞くように日々を過ごしていると、その意識は外向タイプのようになるし・・・
国に従事するエリートのような生き方をしていると、社会的には強者のようになるし・・・
国家繁栄を目指して真面目に働くと、保守の立場になる。

パラノ、外向タイプ、強者、保守・・・全部「国家繁栄」や「他力救済」の方向に当てはまるし、「顕陽」側のものに該当する。

また、孔子の思想はもともとはとても良いことを言っていた思想のはずなのだが、どんどんその本質からそれていく結果になっている・・・これはやはり「言語」の影響である。

孔子の思想が論語として残っているのは「言語」が残っているということであるし、儒教の知識が科挙に採用されているのも「言語」になったものが知識として機能していることになる。
孔子が過去にどれほど良いことを言っていても、それが「言語」として機能している以上は孔子の意図していたようには上手くいかず、むしろ真逆の方向に行ってしまうかのようなことが起きてしまう。
孔子や儒教はとにかく「言葉の壁」による限界が色濃く出ている分野であり、それで人々にとって悪いように捉えられてしまうこともある。

このように「言語」の力が強く作用している特徴においても、孔子の思想は「天」や「陽」側を先手としているものだと言える。

 

以上。
「天」や「陽」が先手なのが孔子や儒教の流れであることの説明が完了したので・・・

次回は老子と道教の流れについて説明する。

 

↓続き

■陰陽哲学基本概要(11) ~陰陽論と老子の思想(前編)~

   

参考文献


-【連載】陰陽哲学

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

■陰陽哲学基本概要(15) ~物質性と精神性~

不定期連載『陰陽哲学基本概要』シリーズ。 記事一覧はこちら。 前回までは、孔子と老子についてを絡めつつ陰陽を説明してひと段落した。 今回のテーマは「物質性と精神性」である。 「物質的であること」と「精 …

■陰陽哲学基本概要(4) ~二種の陽と二種の陰~

不定期連載『陰陽哲学基本概要』シリーズ。 記事一覧はこちら。 前回、易経における「天」と「地」の意味は「剛健」と「柔順」が中心として伝えられていることを説明した。 さらにその意味をおさらいするべく、 …

■陰陽哲学基本概要(20) ~4種の神様~

不定期連載『陰陽哲学基本概要』シリーズ。 記事一覧はこちら。 以前に、「神様はだいたい以下の4タイプいるので、氣を扱ったりスピリチュアルをやったりするなら陰陽論をやった方が良い」ということを書いた。 …

「陰陽哲学基本概要」シリーズ、目次

「連載」ということで書き続けている、 『陰陽哲学基本概要』シリーズの目次です。 「陽」や「陰」、「天」や「地」といった概念の基本を説明しつつ、 西洋哲学の概念や、孔子の思想や老子の思想も扱い、 幅広い …

■陰陽哲学基本概要(16) ~人間が依存しやすいもの~

不定期連載『陰陽哲学基本概要』シリーズ。 記事一覧はこちら。 前回、以下の仕組みについて説明した。 今回はそれを踏まえて、「我々人間が依存しやすいもの」の話をしていこう。   分かりやすい物質性 まず …

プロフィール

Author:Raimu

魔術・オカルト全般好きな理系。
サイキックの研究とか、占星術とか、
神秘と科学の考察的な、自分の好きなものを置いていきます。

詳しくはこちら

2021年頃に書き始めたヌーソロジー学習用テキストの新作。
哲学、シャーマニズム、数学、神学、古代文明、意識進化、オカルト・・・など色んなジャンルが絡んでくる内容のもので、これを読めば『ヌーソロジー』ってどんなものなのかがざっくりと分かるようになるはず。

「陽」や「陰」、「天」や「地」といった概念を基本とする中国の古代思想『陰陽論』や『易経』についてちゃんと説明するテキスト。さらに西洋哲学や精神分析学、ヌーソロジーの概念とも絡めてその哲学を深めていく。

ユング心理学が専門でありながら古今東西の文化や宗教全般にも詳しく、スクールカウンセラーとして数多くの実績を持つ偉人、河合隼雄さんの書籍を読み直してその思想を学ぶシリーズ。

超能力や魔術の研究や、物理学・量子力学を絡めた解明を目的に、少しずつ書いていった連載記事。

正式名称は『はじめての人でもホロスコープを自分で読めるようになるための記事』。西洋占星術で出した結果をある程度の所まで読めるようになることを目的とした記事。

『note』のテキストコンテンツとして執筆。社会不適合者が生き残るための考え方や知恵をテーマにしたテキスト。1~5でとりあえず一区切り。
第1回目はこちら。

半田広宣さん提唱の宇宙論・具体的イデア論と言われている『ヌーソロジー』。その基本から実践的な入門までを、自分なりに一通り説明したページ。

その他に作ったものはこちら。

『Raimuのプログラミングノート』というプログラミング関連のブログを開設しました。
初心者向けの「プログラミング入門」がメインコンテンツになりますので、よろしくお願いします。

noteで西洋占星術による鑑定を有料で受け付けています。生年月日と出生日時から占う命術鑑定です。
通常コースは4000円、簡易コースは2000円にて受け付けています。

Kindle本など。Amazonで買えます。
「佐道来夢」という名前で出してます。

書籍版Kindle版があり。
「4次元」とは何か?というのが主なテーマ。割と理系的な視点から「異世界」について探求していった本と言っても良いかもしれない。
『ヌーソロジー』の理解に必要な「4次元認識」の実践部分もあり。
詳細はこちら

書籍版Kindle版があり。
宇宙論『ヌーソロジー』の入門用。半田広宣さん監修の元、ヌーソロジーの主要な知識を押さえれるコンパクトなハンドブック。
「変換人生活のためのヒント」というテーマの書き下ろしテキストもあり。
詳細はこちら

書籍版Kindle版があり。
「リアルな魔法使い」とは何か?をテーマに、「目に見えないもの」との付き合い方や、その仕組みなどについて幅広く書いていった。オカルト的なことを実践していたり、関心のある人に読んでもらいたい本。
詳細はこちら

Kindle版があり。
ユング、フロイト、ラカンなどの「精神分析」のジャンルを、ヌーソロジーの概念を使って説明することを試みた「ヌーソロジー×精神分析」の本。精神分析の概念がゼロからでを分かるようにしつつ、ヌーソロジーの世界観の理解も深めることができる。
詳細はこちら

メイン⇒@raimu_23tm

占い関連⇒@raimu_23tm_thot

ぬーそろじーたん⇒@noosology_tan

アストロロジーたん⇒@astrology_tan