【連載】陰陽哲学

■陰陽哲学基本概要(17) ~君たちはどう生きるか?~

投稿日:2024年8月31日 更新日:

不定期連載『陰陽哲学基本概要』シリーズ。 記事一覧はこちら。


なんか説教臭いタイトルになってしまった・・・

「君たちはどう生きるか」

吉野源三郎の著作、宮崎駿の映画のタイトルにもなっている言葉である。

宮崎駿の映画は独創的な自伝という感じだが・・・
吉野源三郎の著作は戦争直前の時期に書かれた万人向けの名作でありながらも、現代人にも通じる普遍的なテーマを扱っていて考えさせられる内容なのでオススメである。

さて、これまで「陰陽哲学基本概要」ということで以下のような図を扱ってきた。

 

人間は下側の「顕陽」と「顕陰」の場をメインに生きているわけだが・・・
そうした中で我々は「どこに向かって生きたいか?」みたいな意志があって生きている。

「陰陽哲学基本概要」のシリーズでもこれまで
「パラノ・スキゾ」「外向・内向」「強者・超人」などの2タイプの概念をテーマにしてきた。

■陰陽哲学基本概要(6) ~パラノとスキゾ~

こうした2タイプも、人間にはそれぞれ「どう生きたいか?」が根底にあるから分かれていくことである。

以下のようにざっくりと6方向に分けるだけでも、それぞれに生き方の指針があるわけである。

 ① 目の前にある正しそうなものへ
 ② 物質的に成功しそうな未来へ
 ③ 目の前の正しさとは逆のものへ
 ④ 原始的・動物的なものへ
 ⑤ 古典的な真理へ
 ⑥ 新しい未知の真理へ

 
・・・以上のようにそれぞれに向かう生き方がなんとなくイメージできるだろうか?

こうしたマップを観ながら「人の生き方」について考えていこう。
 

物質的な生き方

先の図の中で大まかに分けると…
「物質的に生きる」の路線と「精神的に生きる」の路線がある。

まずは「物質的に生きる」の路線について掘り下げていこう。

 ① 目の前にある正しそうなものへ
 ② 物質的に成功しそうな未来へ
 ④ 原始的・動物的なものへ

これは割と分かりやすい路線なため、イメージしやすいし理解もしやすいだろう。
多くの人はそちらに向かいやすいため、基本的に人数が多い路線でもある。
その中でさらに二つの路線があり、向かって左側をエリート路線、右側をヤンキー路線とした。

まず、エリート路線は「顕陽」に向かう路線であり…
「法→国家→大衆」の流れにあるものに従事する方向でもある。

社会や学校のルールを理解し、国家のために働くエリートの姿は容易に想像できるだろう。
「儒教」が理想とする生き方もそんな感じであり、中国では紀元前500年頃からそんな思想が支持されていたし、学問が発達していた西洋では特に賢い人間が文明を作り上げていった。
現代日本の学校教育でも、漠然とそんな枠組みの中で優秀で良い人間が育つことが期待されている。

この路線は最終的に「大衆」に行きつくので、資本主義・民主主義で有利な者が良しとされる。
資本主義ではお金を稼げるビジネスができる者や、大衆に人気がある者が良しとされるし…
民主主義ではなるべく多くの人から投票されるような者が良しとされる。
従って、今の世の中で求められるエリート像もそんな感じになっている。

対して、ヤンキー路線は「元陰」に向かう路線であり…
「大地→混沌→動物」の流れがある方に向かうものでもある。

これも単純に「動物のような強さを持つ者」をイメージすれば容易に理解できるだろう。
熊やライオンといった肉食動物のように強くなるには、単純に身体が鍛えられていたり、本能に忠実な強さを持っていると良い。
あるいは、「男は男らしく、女は女らしく」のような、性別の特性を生かした分かりやすい魅力があると良い。

こちらの路線はエリート路線のように学校に行って賢くなろうとしている者とは違って、運動能力や体力のようなものを高める不良路線のような生き方である。
「ヤンキー」という呼称は古いかもしれないが、体力自慢で本能に忠実な生き方ならなんでも良い。
男だったらひたすら強ければ良いし、女だったらひたすら性的魅力があれば良い。
そんな生き方で人生がそれなりに上手くいって幸せになれるのであればそれで良い。

上記の二つの路線には正反対の違いがあるが、どちらも単純に「強者へ向かう」ものであり、目標として魅力的な分かりやすい路線である。

こうしたエリート精神を持った者や強い肉体を持った者は魅力的なため、そうしたことを徹底する優秀な人がいるわけだが・・・
なにもそこまで極端な人間にならなくても良い。
どっちの要素もそれなりに取り入れて「普通に生きたい」と思い、「わりと普通」路線へ行く人もいるだろう。
多くの人は非常に優れたエリートや肉体がひたすら強い者に魅力を感じつつも、そんな感じで生きているのではないだろうか?

以上のような生き方が「物質的に生きる」路線である。
 

精神的な生き方

次に「精神的に生きる」の路線について掘り下げていこう。

 ③ 目の前の正しさとは逆のものへ
 ⑤ 古典的な真理へ
 ⑥ 新しい未知の真理へ

これはなんとなくイメージできるだろうか?
「物質的に生きる」の路線よりは少しイメージしずらいかもしれないが・・・
この路線に向く人は端的に言うと変人のような人であるし、理想的な変人はこの路線を突き進んで立派にやってる人だろう。

「物質的に生きる」の路線は「強者へ向かう」路線であるが…
一方で「精神的に生きる」の路線は「超人へ向かう」路線である。

「超人」はこのシリーズでも以前に説明した通り、哲学者ニーチェの言葉からの引用である。
この路線に向かう者は西洋ではまるで哲学者のようであった。
肉体的にも社会的にも弱い立場のようでも、劣等感を持たず社会的強者を妬まず、己が価値があると信じる強さを磨いて誇ることができる者である。

そうした人は東洋でも哲学者のような人であり、「仙人」のような人だった。
このシリーズで説明した「道教」が目指す人物像がそんな感じであった。
さらに老荘思想や禅が「顕陰」の方向にあるため、「精神的に生きる」の路線にピッタリと当てはまるものになる。

そして、そうした「精神的に生きる」の路線の中でも、「元陽」に向かう者と「顕陰」に向かう者の二つの路線に分けることができる。

まず、「元陽」に向かう者は太古からある「天」の力に注目するので、古典的探究に向かうことになるだろう。
こちらは「天」の力の探究となるため、「思考・学術」を重視したアプローチになる。
太古からある「天」の探究のため古代の思想を追っていったり、古代の神やそれについてが書かれている神話に触れたりする道である。
それから、古代の哲学から普遍的な原理を考えたり、「神とは何か?」を考える神学が重要となる。

対して、「顕陰」に向かう者は新しい「地」の力に注目するので、未来的探究に向かうことになるだろう。
こちらは「地」の力の探究となるため、「感性・身体」を重視したアプローチになる。
古典に依存しない人間特有の美学を求めて「芸術」に関心を持ったりする。
それから、身体で真理を理解することも重要であり、己の身体を特徴を踏まえつつ、新しい境地へ向かう道である。

そんなわけで、「古典的探究⇒思考・学術」「未来的探究⇒感性・身体」のように対応づけることができるが・・・
「顕陰」をつき詰めると、以下のように「地⇒天」の領域に達するものでもある。

 

したがって、「未来的探究」に「思考・学術」が絡んでくることもあるかもしれないし…
「古典的探究」に「感性・身体」が絡んでくることもあるかもしれない。

なんにせよ、「精神的に生きる」の路線にはこうした二種類の道があることを理解しておこう。

また、「未来的探究」と「古典的探究」、「思考・学術」と「感性・身体」のアプローチをそれぞれ横断的に色々やっていくこともあるので・・・
それら全体を踏まえた「中道」の方向もあるだろう。
 

物質的なものが良しとされる中で

さて、我々人間はどうしても「物質的に生きる」の路線に固執したがってしまう性質がある。
多くの人はそっちに向かうため、実際にそういう人が多いことは現実を見ていれば分かるだろう。

それが自然なことであれば、それで良いのかもしれない。

しかし、人間はどうしてもそればかりが正しいと固定するように認識し、それを過剰にしてしまう性質もある。
物質的に生きることが正しいと、その価値観をあまりにも強く固定しようとするのは人間のエゴや自我によって発生することだったり、言葉や言語の力だったりする。

逆に、その反発から「精神的に生きる」の路線を半ば強引に想起し、どこか過剰なやり方で「精神的に生きる」の路線の方が正しいと固定されることもある。
過剰な自然派、過剰なヴィーガン、どこかおかしいスピリチュアル至上主義みたいなのも世の中でよく出てくることがある。
「精神的に生きることが優れていて、物質的に生きることは劣っている」みたいな価値観が正しいと思い込んでいたらそれはそれでおかしい。
それだって人間のエゴや自我が決めたことであり、言葉や言語の力の弊害である。

陰陽論的にはあらゆる事象は移り変わっていくことが自然であり、道理である。
そのため、陰と陽のどちらかが正しいとされていても、違う方に目を向けていくこともしていきたい。

あるいは、「エリートのように賢く優れた強者」「肉体的な強さをひたすら鍛えた強者」「思考・学術のアプローチを極めた超人」「感性・身体のアプローチを極めた超人」のどれかに必ずハッキリ定まってないといけないわけでもない。

どれかに定まらないようにしつつ、色んな要素を取り入れようとする生き方でも良いし…
どれもほどほどな路線で普通に生きようとするのも良いだろうと思う。
 

壮大な歴史の流れの中での生き方

さて、これまで扱ってきた以下の図をさらにもっと掘り下げていこう。

原始時代から生きていた人間が今日まで文明を発展させた過程には…
「自然を生きる」のフェーズと、「国家を生きる」のフェーズと、「民主主義・資本主義で生きる」のフェーズがあり、その中で「元陽」「元陰」「顕陽」「顕陰」の4つの原理が働いていることがある。

そのそれぞれにある主要な要素をざっくりまとめると、以下のようになる。

我々現代日本人がいるのは「民主主義・資本主義で生きる」のフェーズの中であり、さらにコンピューターが出てきてからは情報化社会にもなっている特徴がある。
そのため、現代で「どう生きるか?」を考えると必然的にそこがメインになる。

しかし、肉体を持って生きている以上は「自然を生きる」の中にある強さは大事であるし…
世の中は「政府」「法」「宗教」といったものが相変わらず力を持っている面もある。

そうしたことから、現代の最先端の文明を生きている人でも「人間は過去の時代に生きた精神を持ち合わせている」という性質があり、過去に全盛期があった文明を大事にする人もいる。

だから、21世紀の現代を生きる我々にとって、その時代に普及していることだけが重要なのではなく・・・
どの時代に関心があるか?
どのあたりの勢力に関心があるか?
どんな思想に向かいたいか?
・・・みたいな話も重要になってくる。

人類の歴史を学びながら、そんなことを考えてみるのも面白いかもしれない。

そんな感じで世の中の全体像を踏まえつつ「どう生きるか?」を考えていき・・・
自分自身を肯定できるような、しっくりくる感覚を持ちながら生きていくことができれば良いと思う。
 
 
↓続き

■陰陽哲学基本概要(18) ~「氣」の概念はどこにある?~


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